Design Fiction Workshop(デザインフィクションワークショップ)に参加して感じた、未来を描く際の物語の有効性
10年後の未来ってどんなことになっているんだろう?
今から10年前といえば2006年、初代iPhoneの発表が2007年の1月9日のことなので、私はいわゆるガラケーを使っておりました。今でいうスマートフォン的なものはPDAと呼ばれていて、お世辞にも使いやすいと言えるものは少なく、持っている人はどちらかというと「物好き」と言われるそんな頃。
今みたいな世界になっていることが想像できた人は、ほとんどいないのではないでしょうか?
一方で映画「マイノリティ・リポート」が公開されたのが2002年のこと。
劇中でトム・クルーズが演じた主人公の操るマシーンは、見た人の心を鷲掴みし、きっと未来はこうなると思いましたし、今もその実現に心血をそそぐ人たちがいます。
このように現実世界の技術的な未来予測ではなく、フィクション・物語によって多くの人が未来のビジョンを描き、その実現に向けて未来がドライブしていくという例は少なくありません。
そう、子供の頃から見てきた「ドラえもん」が私たちに与えたインスピレーションがかくも大きいように。
デザインフィクションワークショップとは?
というわけで、こんにちはタムカイです。
肩書きとしては、デザイナー、ブロガー、ラクガキコーチと、どんどん不思議なことになってきている今日この頃なのですが、先日株式会社ロフトワーク主催、NECパーソナルコンピュータ株式会社とレノボ・ジャパン株式会社が協賛する Design Fiction Workshop vol.1なるイベントに参加してまいりました。
イベントページの冒頭にはこうありました。
デザイン・フィクションはフィクションの一種じゃない。デザインの一種だ。それは、ストーリーというより、世界を伝えるものなんだよ。
ー ブルース・スターリング(デザイン・フィクション提唱者/SF作家)
私自身、学生時代の課題からはじまり仕事やプライベートでアイデアソンなどに出て、時にはワークショップのファシリテーター側に回ることもあり、何か学べることがあるだろう!ということで参加を決めました。
そもそも私がラクガキコーチという肩書きでラクガキ講座を開いていたり、「ラクガキノート術」という本で伝えたいことというのが「みんなの頭の中にあるビジョンを描いて伝えることの大切さ」なんですよね。
そういうのを踏まえ今回は私の感想と、もっとこうだったら…!みたいなのを交えて、こちらのイベントをご紹介したいと思います!
物語の力を使って未来のビジョンを描く
まずは協賛であるレノボ・ジャパン株式会社社長の留目氏よりインプットがありました。こちらの内容を以下のラクガキノートでどうぞ。
「すごいもの」として生活に入り込んできたパソコンですが、人々の使い方は30年で変わっていない。なぜ、変わらないのかその原因として考えられるのがコンピューティングにおける技術先行の傾向、あるいはそのせいによるビジョンのなさではないだろうか。
でも実際はコンピューターによってもっとたくさんの問題が変わるはずで、そのためには働き方であったり産業構造が変わる必要があるはず。
この日は参加者50名、バックグラウンドの違うメンバー5名ごとで10のチームができたのですが、こうした新しい繋がりによる「共創」によって新しいものが生まれるのでは、ということでした。
今回のワークショップでは物語的プロトタイプとしてデザインフィクションの手法を体験しつつ、未来について自分なりの考え方や理想を持つことです、と今回の進行を担当されたロフトワーク佐々木氏から。
「デザインフィクションを学ぶものではない」ということで、概論よりも実践あるのみ!という内容になっておりました。
ちなみに、用意された5つの賞がどれも豪華で会場のボルテージが一気に上がりました(笑)
今回の進行と、うちのチームのアイデアと
今回のワークショップでは、チーム内で個人ワークとチームでの共有を繰り返す形で内容が進んでいきました。
概要としてはこんな感じです。
Work0.アイスブレイク
なにはともあれ、チームメンバーの交流が大事です。
今回はデザイナー、プログラマー、商品開発担当、プロモーション担当、まちづくりに関わる方と、実に多様なメンバーが集まりました。
こちらが最終発表で使ったタイトルシート、こんな5人でした。
Work1.理想の未来像をシートに書き出す(個人→チーム)
事前に宿題として出ていた「理想の10年後の未来」というものについて、まずは個人でシートに書き出し、その後チームで共有していきました。
ここではある程度具体的なアイデアになっている人から、24時間ビール飲んでたい!もっと寝たい!!という願望を書く人まで色々なレベル感があって、それはそれで面白かったです(笑)。
(ただ、どうなる…!?とビビったのは内緒)
ちなみにうちのチームは「1日がもっと長かったら!」という願望に対し、個人個人がアバターUIを持ってそれが仕事とと家事を6時間ずつ短縮したら1日36時間になるんじゃない!?というゆでたまご先生も真っ青の理論を展開することになりました。(次点は脳に電極を刺し時間間隔をハックする案(笑)
Work2.アイデアを一つの方向に絞り、その未来の世界感を描く(チーム)
理想の未来について世界感を深めていく作業。
全体の概要に加え、食文化やトレンド、ワークスタイル、ファッションなど多面的に想像することで世界感を共有し具体化していきました。
Work3.キャラクターを設定する(個人)
物語の主人公となるキャラクターを設定。
キャラクターの絵に加えて、名前、年齢はもちろん、人間関係や尊敬する人、さらにが軽蔑する人までも考えるものでした。
ちなみにこちらについては、以前、NHK高校講座にジョジョの奇妙な冒険でおなじみ荒木飛呂彦先生が出演された際に「キャラクター身上調査書」なるものを作成していて、こちらに近いなと思いました。(こちらの方がもっと細かい項目が入っていました)
NHK高校講座 | 芸術(美術Ⅰ/書道Ⅰ) | 第15回 美術(8) 漫画はやっぱりおもしろい ~人物~
ちなみに物語を作るという観点で、こちらの本も参考になるなと感じました。
Work4.物語を作る(個人→チーム)
4コマの絵コンテを用いてその世界における主人公のストーリーを個人ごとに考えて、共有し一つのストーリーにしていきました。
短い時間だったのもあり、なかなか苦戦しましたが、お互いのストーリーの中から要素を拾い上げてパッチワークのように物語をつくることで、面白い広がりができたと感じました。
で、うちのチームのプレゼンは2人の子を持つワーキングマザーこずえが、コンピューティングによって生まれた時間を使って、あえて手間ひまをかけて子供と接するというようなストーリーになりました。
メモ代わりに撮った写真でちょっと汚い><
正直なところ、あとから見返してアイデアとしてありきたりな部分が多々ありますし、もっと伝えたいこともあったのですが、ひとまずはこちらのアイデアで発表となり、結果ありがたいことによい評価もいただくことができました。
自分のチームの写真がないのでこちらで。
実際に体験してみてどうだったか
普段だったら関わらないメンバーと、普段とは違った場所でアイディエーションすることはとても楽しかったです!
が、楽しかっただけで終わるのもあれなんです。
そういうのもあり、週末を過ごす中でもっとこうなっていたらいいのではないか、もし自分がこの内容をやるならこうするだろうな、と感じるところを色々とFacebookに書き込んでたら、中の人から「ぜひブログに!」とコメントをもらってしまったのでちょっと書いていきたいと思います!
1.(個人的に)時間的な厳しさがどうしてもあったかな
今回のワークショップが10時スタートでプレゼン開始が16時(うちお昼休憩を含む)、と結構タイトなものでしたのでやはり時間的不足感は否めませんでした。
加えて、「(個人的に)」と書いているのは、今回のワークシートが全て手描きで、最終プレゼンも同じシートが指定されていたので、どうしても描く役目の人に負担がかかってしまうなと感じたからです。さらに言うと「ちょっと自分、絵は…」という方もいたようでした。
今回は事前にチーム分けをされていてどのチームにもイラストレーターさんなど描く系の人がいたのですが、そこの負担ってどうだったのかな、と気にはなりました。(いや、描くのが楽しいからいいっちゃいいのですが)
いや、それこそ最初に僕にラクガキ講座をさせてくれれば!
ほら、それこそこの本はそのためのものなんだから!(宣伝です!)
2.通常のアイデアソンとの違いとの違いをどこで出すか問題
私自身が普段からデザインに携わっていたり、アイデアソンなどに参加したりファシリテートする立場からいうと、アイデアを考える際に世界感を考えるのは当たり前のことだったので、今回の「デザインフィクションならでは」という部分が若干弱いようにも感じました。
いわゆるUXデザインという形でユーザーの体験全体を考えると、世界観や登場人物について考えるのは必須になってきますので。
今回で言うと、アイデアの部分はある程度出てくるものという前提で、ストーリー作りをもう少し掘り下げる方向がよかったかも、と感じました。
例えばスターウォーズなどでも用いられている神話の物語構造を型として使うなどして、物語が与える世界感をもっと印象的にできれば、そこからさらなるアイデア展開につながるのかもしれないな、と(後述&今回はちょっと長いのでここは割愛)。
ちなみに以下は以前私がファシリテーターを務めたワークショップで、物語を作ってもらうカリキュラムを考えるために読んだ本です。
1から10まで全て使えるというタイプではないかもしれませんが、参考になりました。
ちなみにこちら、最近ようやく完結したでおなじみ多重人格探偵サイコの原作者、大塚英志さんの著書です。
いや、色んな作品での途中の引き伸ばしに辟易って意見もよく聞きますが、やっぱりこの人の書くストーリーってつい引き込まれてしまうんですよ(笑)。
3.4コマのストーリーボードって本当に伝わる?って疑問
最後は自分自身にとっても課題なのですが、私もこういったワークショップで4コマのストーリーボードを書いてもらうことがあります。
でも、ぶっちゃけあれって書きやすいですか?さらに言うと伝わりやすいですか?
どうもしっくりこないなー、とこれまでも思ったことはありつつスルーしていたのですが、あらためて描いてみて難しいなと感じる部分もあったのでした。
そんな中、最近可能性を感じているのがマンガ的な表現でして、あれって物語を認識する上で最も効率が良いというか、文字ベースよりもイメージが湧きやすく、映像よりも作るのが簡単で時間も短くて済むんですよね。
言うなれば最初に例にあげた「ドラえもんがいかに私たちにインスピレーションを与えたか」って部分に通じるものもあって。
ちなみに以下はワークショップ後に、今回のアイデアの世界観部分をマンガっぽく描いてみたものです。
どうでしょう?
先に出てきたシートに加えて、この1ページを読むと世界観がすっと伝わるかと思いますし、さらに「こんな場合はどうだろう?他にはどうだろう?」とイメージを刺激してくれるんじゃないかな、と思います。
「デザインフィクション」という意味ではこの辺りがスタートになると、もっとアイデアや世界観が深まるのかも?と思う部分でもありました。
この最後の1〜3はどちらかというと私が個人的にやってみるならどうするだろう、という自分への覚書みたいなところもあるので、決して今回のワークショップがどうっていう部分ではありません。
むしろもっと面白くなりそうっていう可能性を感じました。
いずれにせよ、多様な人間の多様な考え方が組み合わさって新しいものを生み出していく時代において、様々なアプローチが体験できるのは本当に楽しいし、こういった機会をいただけてありがたいと感じました。
参加者のみなさま、そして主催のみなさま、本当にありがとうございました!!
今回紹介した本はこちらになります。