ジャンプの新連載「学糾法廷」の第一話がプレゼンテーションとしてものすごく良くできているってお話
子供の頃からジャンプが大好きで、思えば小学生の頃から読んでいたなと思ったら、来年はもう子供が小学生です…という書き始めを思いついたらなんだかクラクラしてきました、こんにちは。
というわけで、いい大人になったものの相変わらずジャンプを読み続けているわけですが、やっぱり中身は少し変わってきて、ちょっと違った視点でマンガを読んだりもするわけです。
で、最近はもっぱら立ち読みで済ませていたジャンプを珍しく買ってしまったのは、2014年12月1日発売の号で新連載が始まった「学糾法廷」というマンガの第一話がすごい!と思ってしまったからなんですね。
で、勢い余ってこんなツイートを
ジャンプの新連載の学糾法廷の第1話が完璧すぎるわ。いや、これほんとすごい。あとでブログに詳しく書く。
— タムカイ (@tamkai) 2014, 11月 30
言ったからには書くしかないわけです、さすが宣言の力!
さて、今回なぜこんなことを思ったのかというと、その直前に読み始めたコチラの本「プレゼンの極意はマンガに学べ」で書かれていたことが、まさに実践されていたからなのです。
こちらは「ドラゴン桜」などで有名な漫画家の三田紀房さんによる本で、ご自身のマンガに対する戦略をビジネスに応用するカタチで書かれた一冊。
「マンガ家にとって第一話は読者対する一発勝負のプレゼンである」というメッセージに対して、人を動かす20の法則が、ドラゴン桜の第一話を例にして解説されているのです。
これがおもしろいんですよ。
で、今回読んだジャンプの「学糾法廷」の第一話はビジネスではなくそのままマンガになるのですが、しっかりとこの本で解説されている要素が盛り込まれていると感じたのです。
個人的にこういった本の内容を理解するにするには、エッセンスとなる原理原則を知るのはもちろん、それを踏まえていくつもの具体例を噛み砕くのがいいなと考えているんですよね。
今回はコチラの本の内容を踏まえつつ、「学糾法廷」でどういった内容がグッときたかをご紹介してみたいと思います。
(あ、基本的に第一話を読んだ方向けの内容になることをご了承ください)
読者を引きつけるのはなんといっても「謎」
人は分からないことがあると、それを知りたいと思うものです。
「学糾法廷」は根本が謎解き的な要素を含んでいる構成なので、そこが最初に目につきます。しかし、それ以外にも随所に小さな謎を仕込むことによって読者を飽きさせない工夫がされているんですよね。
例えば
・「論破」を好む主人公がどうしてこういった性格になってしまったのか?
・今までに3人の特別な存在である理由
・鬼ヶ島小学校という存在
・主人公の名前「犬神暴狗(いぬがみあばく)」と合わせ回想シーンの黒板の「さる、きじ」の文字
・と、いうことは桃太郎…?
などなど。
どこまでが回収され、どこが放置されるのか今の時点では分かりませんが、気になるキーワードが見つかります。
こういう大きい謎と小さい謎のバランスもいいんですよね。
「学糾法廷」という世界感を形作るリアルと虚構のバランス
「学糾法廷」という作品は学級裁判をテーマにしつつ、問題が起こった際に国が小中学生の検事と弁護士を送りこむという少し不思議な世界設定になっています。
こういった設定に説得力を持たせるために重要なのが、突飛な設定以外のリアリティを描くことです。
「プレゼンの極意はマンガに学べ」の中でも「7割のリアリティを守れ」というメッセージがあります。
例えば、裁判用語は本物同様のものを使用することで、ベースとなる裁判というもののリアリティが担保されます。
また、文字通り「描く」という意味では、背景に書道の作品が貼られているなど、小畑健先生の巧みな画力で小学校としてのディティールがとても細かく描かれているんですよね。
教室の後ろに習字が貼りだされている感じとか
あえて読者にノスタルジーを感じさせる演出なのか、あえて懐かしい駄菓子屋風のお店が
キャラクターの魅力はもちろんですが、こういった背景などはリアルであればあるほど無意識のうちに読者を納得させるものなのです。そういった目で見てみるのも面白いのではないでしょうか?
新しい魅力は王道を踏まえた先にある
今回の作品が、ゲーム「逆転裁判」や「ダンガンロンパ」であったり、後述する「古畑任三郎」の演出に似た部分があるため「パクリじゃないか」なんていう感想もあるそうです。
しかし要素として同じなのは「裁判」「論戦」「謎解き」という王道の構成であって、内容が他の何かと同じではないんですよね。
「プレゼンの極意はマンガに学べ」の中でも「ベタであることを忘れるな」というメッセージがあるとおり、こういった既視感も読者を引き込む要素だったりするわけです。
それを踏まえて私が感じたのは、あえて「異議あり」のようなセリフを使って、他の作品をイメージさせているのかなということでした。
というのも、この話が裁判を扱うのであれば、今後どうしてもこういったセリフ演出は出てくるわけで、それを第一話時点で認めているともとれたのです。
逆に「どこかで見たことあるな」という要素がたくさんある割に、それを一つの作品としてよくまとめあげているな、とも思うんですよね。
ちょっと余談「第四の壁」の使い方
この言葉は劇場で生まれた。すなわちごく普通の三つの壁で覆われた舞台が言葉通り「第四の壁」を与えたのである。しかしながらこの言葉は映画、テレビ、文学といった他のメディアでも使われており、フィクションと観客との境界を示す一般的な言葉として用いられる。
via:第四の壁 – Wikipedia
第四の壁とは簡単にいうとフィクションと現実の間の壁を指します。
つまり映画やドラマの中の登場人物は、現実世界の私達が見ているとは思ってないという前提のことです。
しかしこういった制約事項は、時にこれを無視することで新しいエンターテイメントを生み出します。
つまり登場人物が、読者や観客がいると認識し「これはマンガだから」とか読者に話しかけるという構造ですね。
もちろん使い方によってひどくつまらなくこともありますが、うまくはまった時はとてもいい効果を発揮します。
例えばテレビの視聴者が自分の生活を見ているという構造で、第四の壁自体を題材にした映画「トゥルーマンショー」という作品があります。
またアメコミには、唯一第四の壁を認識できる「デッド・プール」というキャラがいるのですが、実は他のヒーローを差し置いて一番人気なんですよね。
ええ、この項目は私のデッド・プール愛を語りたかっただけです(笑)
「学糾法廷」ではテレビドラマ古畑任三郎ばりに、ラスト別空間での読者に語りかける演出がありますが、これが第四の壁を意識したものですね。
そして最後の引きが巧み
最後にやっぱりうまいなーと思ったのが、ラストに出てきた証人喚問要請書に誰の名前が入るか?という謎とともに、今回出てきていますよ、と主人公が伝える部分です。
手法として決して新しいものではないのですが、それを言われた瞬間、思わず最初に戻ってしまったんですよね。
つまり「もう一度読んで理解を深めたい!」と思ってしまったわけです。
これによって第一話にして二度読みたくなり、さらに来週も謎という不安を解消するためにきっと読みたくなるわけで。
特に増ページだった第一話には多くの情報や謎が含まれているわけで、その理解促進にもなるんですよね。
これがうまいなー、と。
ただ読んだだけだと、「へー、おもしろそう」というマンガだったのですが、ちょうど読んでいた本のおかげでこんな風に楽しむことができました。
ほんと、読書っていいですねってことで次回が待ち遠しいです(笑)
ちなみに上述の項目以外にも「あ、これってこの要素かも!」というのが多くて面白かったです。
もちろんマンガだけでなく、考え方をビジネスやプレゼンに応用できるエッセンスがつまっていてオススメですよ!
※画像はジャンプ2015年1月1日号から引用しました